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WBC2026 東京ドーム観戦記|チェコ国歌を歌うことになった夜

東京ドームで、チェコ国歌を歌うことになるとは思っていなかった。

WBC2026 日本 vs チェコ。
その夜、球場ではちょっと不思議な時間が流れていた。

目次

「あなた、チェコの国歌を練習しているの?」

東京ドームの入場列で、突然後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこにいたのはチェコから来た家族のサポーター。
実はそのとき私は、楽譜を見ながらチェコ国歌の譜読みをしていた。

WBC2026。
日本 vs チェコ。

東京プール最終日の試合だった。

きっかけは、試合前に何気なく聴いたチェコの国歌だった。

それが驚くほど美しい曲で、思わず「これは覚えたい」と思ってしまった。

通勤中に楽譜を買い、
原語の歌詞にカタカナを書き込み、
意味も横にメモする。

YouTubeを何度も聴いて、ひたすら練習。

もちろんチェコ語は初めて。
発音はかなり怪しい。

それでも、なんとか歌えるようにはなった。

そんなわけで、入場列でもこっそり譜読みをしていたのだけれど。
それを見ていたのが、さっきのチェコ人家族だった。

「本当に歌うの?」

驚きながらも、とても喜んでくれて、
一緒に写真を撮ってほしいと言われ、なんとチェコのお菓子までいただいてしまった。

そのとき思った。

今夜は、ちょっと特別な試合になりそうだ。

雪のあと、東京ドームへ

その日の東京は、午前中にめずらしく本降りの雪が降っていた。

けれど昼過ぎには嘘みたいな快晴。
街は一度洗われたような、澄んだ空気になっていた。

東京プール最終日。

会場の雰囲気も、どこか穏やかだった。

勝敗だけではなく、
純粋に野球を楽しみに来ている。

そんな空気がドームに流れていた。

チェコ国歌を歌う日本人

そして試合前。
国歌斉唱の時間。

私は日本人の観客席で、ひとりチェコ語の国歌を歌った。

終わった後、家族に言われた。

「めっちゃ声通ってたよ(笑)」

どうやら周りの人たちは、結構こちらを見ていたらしい。

思い当たる節はある。

最近、宅トレを続けていた。
たぶんその成果。

その夜の東京ドームには、
まだ誰も気づいていない物語が、もうひとつあった。

あの夜、同じ球場にいた人がいたなら。
どこかで同じ空気を吸っていたのかもしれない。

どうしても欲しかった1点

試合が始まる。

チェコの投手陣は本当に見事だった。

日本に点を取られながらも、粘り強く投げ続ける。
そして両チームとも、怒ったり諦めたりすることなく、最後まで真摯にプレーしていた。

そんな試合を見ながら、私はずっと祈っていた。

日本が勝ってほしい気持ちはもちろんある。
でもそれ以上に願っていたことがあった。

チェコに、1点。

それだけでいい。
どうか、1点。

途中、ふとこんな考えが浮かんだ。

そういえば、日本を応援していないな。

チェコの1点ばかり祈っていた私は、
少しだけ日本も応援してみることにした。

すると、その直後。

日本に点が入った。

……あれ?

前回の試合でも似たことがあった気がする。

どうか、1点。

それだけが、その夜の祈りだった。

マウンドに送られた拍手

チェコ代表の選手の多くは、普段は会社員や学生として生活している。
国内の野球人口はおよそ1万人ほど。その中から選ばれた精鋭部隊。

試合前日に宿題をしていた高校生選手がいた、という話まであるのだとか。

試合はその後、日本が得点を重ねていく。
それでも彼らは、日本代表を相手に堂々と戦っていた。

結果は9−0。

チェコに得点は入らなかった。

ただ、この試合にはもうひとつ印象的な場面があった。

チェコのサトリア投手。
この試合で代表を引退する。

65球以上を投げ終え、マウンドを降りたとき。

東京ドームにいた選手、観客、スタッフ。
その場にいたすべての人が、スタンディングオベーションで彼を称えた。

そして試合後。

チェコの選手たちは、日本の選手に向かって拍手を送っていた。

国は違っても、互いを称える。

東京ドームには、
とても静かな、だけど温かい敬意が流れていた。

無失点という、もうひとつの勝利

試合は日本の勝利。

でも帰り道、私の心には少し空白が残っていた。

チェコの1点。

結局それは、叶わなかったから。

けれどその夜、ふと気づいた。

私が応援していたサトリア選手は、
マウンドを降りるまで無失点。

ピッチャーとしては、完全な仕事だ。

ああ、そうか。

応援は、届いていたのかもしれない。

あなた一人から始まる平和

翌朝、またひとつの言葉が浮かんだ。

「あなた一人から始まる平和」

この言葉は、私にとって特別だ。

10年前。
国際平和を願って音楽の道を探していたころ。

聖書を学び始めたとき、牧師さんに言われた言葉だった。

それから10年。

かつての私だったら、
他国の国歌をわざわざ楽譜まで用意して、
日本人に囲まれた観客席で大きな声で歌うなんて、
きっとできなかったと思う。

でもあの日は、自然とそうしていた。

小さな感動が、
見知らぬ国の人との交流につながる。

同じ球場で、
同じ試合を応援する。

東京ドームのあの夜。

あれはきっと、
小さな平和が生まれていた時間だった。

そしてその平和は、
たぶん。

一人から始まる。


これを書きながら、
チェコ人一家からもらったチョコを食べている。

とてもおいしい。

私の胃袋も、
この上なく平和だ。

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