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【芸術note】東京佼成ウインドオーケストラ第173回定期 ~吹奏楽が“別の音楽”に聞こえた日

吹奏楽って、最近ちょっと疲れる音楽だと思ってたんです。
元気すぎる、というのが近いかもしれない。

オーケストラ曲を聴くことや演奏する機会が増えるうちに、
気づけば10年以上、距離を置いていました。

……サックス吹きとしては、少し変な話だけど。

目次

距離を置いていた音楽

海外の友人たちが日本に来るという話を聞きました。

目的は、日本で最も有名な吹奏楽団のひとつ、
東京佼成ウインドオーケストラの定期演奏会を聴きに来ること。

吹奏楽を聴きに、わざわざ日本に来るらしい。

何事…??と若干思いながら、
随分とご無沙汰になった楽団のサイトを開きました。

ちょうど空席があったのは、
東京芸術劇場のコンサートホールど真ん中。

「この日、何かあるかもしれない」

そう思ってチケッティングした後、
予感は的中したのか、
指揮者コメントが掲載されていました。

今回、ラヴェルの傑作《ダフニスとクロエ》(全曲)の新版を世界初演としてお届けします。
これは非常に特別で、唯一無二の機会です。
私自身、この作品はフランス音楽の権威であるジャン・フルネに学んだ思い出深いレパートリーでもあります。
舞曲的要素と色彩、情熱、そして高揚感が、天才的な手法によって融合した見事な作品です。

どうかこの特別な機会をお見逃しなく。ぜひ会場で、私たちの演奏をお楽しみください。

第173回定期演奏会に寄せて、ユベール・スダーンからのメッセージ

なぜその日を選んだのか

2026年4月29日 東京芸術劇場。

吹奏楽を聴きに来たはずが、
受け取ったプログラムを見ると、どこか様子が違います。

小品、協奏曲、そして約1時間の大曲。
まるでオーケストラの演奏会のような構成です。

吹奏楽の公演としては
あまり見かけないセットリスト。

公演が始まって、
実際耳に入ってきたのも
やはりどこかオーケストラのような響きでした。

とにかく柔らかい。
それぞれの楽器の音いうより、
お互いが溶けてひとつになった、別の音が聞こえてきます。

それでいて、必要なところでは吹奏楽よろしく、しっかり前に出てくる。

いわゆる「ザ・吹奏楽」とは、少しどころか全然違うサウンド。

オケとも吹奏楽とも違う、
第三形態のような新しさすら感じました。

「編曲」という衝撃

今回の演奏会で
いちばん印象に残ったのは、「編曲」でした。

とくに《ダフニスとクロエ》(通称ダフクロ)の全曲版。
吹奏楽としては新編曲、しかも世界初演です。

聴いているあいだ、何度も思いました。

これは本当に、編曲なんだろうか。

プログラム・ノートも異例で、
編曲された大橋晃一さんご自身がご執筆。
内容がとてもおもしろかったです。

私のオーケストラからの編曲作業において2つ念頭に置いている。
「写譜ではない」と「演奏者に無理をさせない」である。
(中略)
弦は同族なので響きが同じだが、写譜をした管楽器ではバラバラになってしまう。
そうではなく一旦バラバラにして響きを「再構築」するのである。
そうすると楽器間で溶け合い、人数が少ない吹奏楽でも大編成オケの音が生まれる。

プログラム・ノート バレエ音楽《ダフニスとクロエ》(全曲)より

原曲をなぞっているわけではないのに、
むしろラヴェルの輪郭が、前よりはっきり見えてくる。

そこで起きていたのは単なる再現ではありませんでした。

元に戻るのではなく、
別のものとして立ち上がっている。

むしろ、本質に近づいているようにすら感じる作品でした。

新しくも自然で、ラヴェルらしい色彩と透明感が際立つサウンド。

ご自身を“ダフクロオタク”と表現された通り、

あの音の正体をひとつ言葉にするなら、
「好きで見続けた人にしかできない解体と再構築」。

そんな気がします。

精密さのその先にある「空気」

この記事を書いた10日ほど前、
明治から昭和初期に活躍した天才的な日本画家「下村観山展」に行きました。

レビューは別記事に任せるとして、
動物の毛一本一本まで届く細密な筆致の観山。

そして「スイスの時計職人」と評されるほど
緻密に計算された精緻な書法(オーケストレーション)で20世紀音楽を切り拓いたラヴェル。

年齢を重ねても画法をどんどん更新し、
「音楽ってここまでやっていいんだ」と思わせるほど音の実験を繰り返した点にも、2人の共通点がありました。

新しさを生み出すには、
「好き」や「好奇心」といった、
シンプルだけど
磨き甲斐のある心をつくり続けるところに
ヒントがありそうです。

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